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銭湯「一の湯」

歴史とぬくもりを感じる銭湯

群馬県桐生市本町に佇む銭湯「一の湯」は、明治から昭和へと続く織都・桐生の歩みを今に伝える、どこか懐かしい雰囲気に包まれた場所です。1912年(大正元年)、この地に建てられた当初は、周辺の絹織物工場で働く女子工員たちのための浴場として営業を開始しました。織機の音が響く工場で一日を懸命に働いた女工さんたちが、疲れた体を癒やすために訪れた湯屋。それが「一の湯」のはじまりです。

やがて時代の流れとともに公衆浴場として地域に開かれ、地元住民に長く親しまれてきました。湯上がりに瓶入りの牛乳をぐいっと飲むひとときは、昔ながらの銭湯文化を象徴する光景です。木の香りや湯気に包まれながら、世代を超えて人々が語らう場所として、「一の湯」は桐生の暮らしとともに歩んできました。

惜しまれつつ廃業、そして復活へ

長い歴史を刻んできた「一の湯」ですが、2018年末に惜しまれながら廃業となりました。しかしその灯は消えませんでした。埼玉県から桐生へ移住した山本真央さんが中心となり、桐生市本町にオフィスを構えるIT企業「株式会社CICAC(シカク)」の協力を得て再生プロジェクトが始動。地域の想いと新しい力が結びつき、歴史ある銭湯は再び息を吹き返したのです。

建物の趣はできる限りそのままに、昔ながらの雰囲気を大切にしながら営業を再開。単なる入浴施設ではなく、「人と人をつなぐ場」として新たな役割を担っています。

薪で焚くやわらかな湯 ― いま貴重な薪炊き銭湯

「一の湯」の最大の特徴は、今では珍しくなった薪炊きの湯です。近年はガスボイラーによる加熱が主流となっていますが、ここでは昔ながらの薪窯ボイラーを使用し、時間をかけてじっくりと湯を沸かします。

薪炊きは温度管理が難しく、熟練の技術を要します。しかしその分、湯あたりがやわらかく、体の芯までじんわりと温まるのが魅力です。

薪炊き湯の主な特長

・温度ムラが少なく、肌への刺激がやわらかい
・長湯してものぼせにくい
・短時間の入浴でも体がよく温まり、湯冷めしにくい

薪の炎で温められた湯は、どこか自然のぬくもりを感じさせます。湯船に身を沈めると、ゆらめく炎の気配まで伝わってくるような感覚に包まれます。銭湯好きの方にとって、この「薪炊き」は特別な価値を持つ存在といえるでしょう。

桐生新町 ― 400年の歴史を受け継ぐ町並み

「一の湯」が建つ桐生新町は、約400年前の天正年間、徳川家康の命により町立てが行われた区域です。上野国山田郡荒戸村と久保村の一部を割いて建設され、当初は荒戸新町と呼ばれていました。その後、桐生織の発展とともに「桐生新町」と改称され、両毛機業地帯の中心地として栄えました。

町の骨格は、天正19年(1591年)から慶長11年(1606年)にかけて整備されました。幅五間に拡げられた街道の両側に、間口六間前後・奥行き約四十間の短冊状の敷地割が整然と並びます。現在もこの地割りが良好に残っていることは、歴史的にも非常に貴重です。

重要伝統的建造物群保存地区と日本遺産

桐生新町は2012年、国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に選定されました。さらに2015年には、日本遺産「かかあ天下-ぐんまの絹物語-」の構成文化財にも認定されています。

地区内には、主屋・長屋・蔵・鋸屋根工場・門・塀・井戸・祠など、多様な伝統的建造物が数多く残され、製織町として発展した歴史的風致を色濃く伝えています。

織都を象徴するノコギリ屋根工場

桐生新町を歩いてまず目を引くのが、鋸の歯のように連続する屋根形状を持つノコギリ屋根工場です。屋根の北側に採光面を設けることで、安定した自然光を確保し、織物の検査や作業に適した環境を生み出しました。

大谷石造りの旧曽我織物工場や、煉瓦造りの旧金芳織物工場など、それぞれに個性があります。現在はイベントスペースやベーカリーカフェとして活用され、歴史的建築が現代の暮らしと調和しています。

桐生天満宮と祭りのにぎわい

「一の湯」の向かいには、関東五大天神の一つとされる桐生天満宮が鎮座しています。安永7年(1778年)から寛政5年(1793年)にかけて建てられた社殿は、群馬県指定重要文化財。精緻な彫刻が施された権現造りの建築は、訪れる人を魅了します。

毎月第一土曜日には骨董市が開かれ、境内は多くの人で賑わいます。また、8月第一金曜日から三日間開催される桐生八木節まつりでは、市内中心部が歩行者天国となり、八木節の音色と踊りが町を熱く包み込みます。

祭りの期間中、「一の湯」では“振る舞い湯”が行われ、神輿の担ぎ手たちが汗を流しに訪れます。地域の祭礼と銭湯文化が結びつく、桐生ならではの風景です。

歩いて楽しむ桐生新町モデルコース

桐生駅を起点に、徒歩約1時間半、約1.3キロの散策コースがおすすめです。有鄰館、旧書上商店、旧曽我織物工場、桐生天満宮、群馬大学工学部同窓記念会館、そしてベーカリーカフェレンガなどを巡り、最後に「一の湯」で汗を流す。歴史とものづくり文化、そして人の温もりを体感できる充実のコースです。

地区見学のお願い

重伝建地区内の建造物の多くは、現在も個人が所有・管理し、実際に生活されている場所です。敷地内への無断立ち入りは控え、写真撮影の際は許可を得るなど、マナーを守った散策をお願いいたします。

未来へつなぐ町と湯のぬくもり

「西の西陣、東の桐生」と称されるほど、織物で栄えた町・桐生。その中心にある桐生新町は、町立てから約400年を経た今も、歴史の息吹を感じさせる貴重な空間です。

そして銭湯「一の湯」は、そんな町の記憶をやわらかな湯気とともに包み込み、未来へと伝える存在です。薪の炎が生み出すぬくもり、木造建築の趣、そして人々の笑顔。歴史と現在が交差する桐生新町で、ぜひ心ほどけるひとときをお過ごしください。

Information

名称
銭湯「一の湯」

桐生・赤城

群馬県