群馬県桐生市新里町に広がるぐんま昆虫の森は、全国的にもめずらしい「昆虫」をテーマにした体験型教育施設です。広大な里山環境のなかで、実際に昆虫を探し、観察し、自然との関わりを学ぶことができるこの場所は、子どもから大人まで多くの人々に親しまれています。単なる展示施設ではなく、五感を使って自然と向き合うことができる“生きた学びの場”として、高い評価を受けています。
園内は約45ヘクタールにも及ぶ広大な敷地を有し、雑木林や小川、田畑、原っぱなど、日本の原風景ともいえる里山の環境が丁寧に再現されています。この自然豊かなフィールドでは、1400種類以上の昆虫や多くの野鳥が確認されており、四季折々に異なる生きものたちの姿を見ることができます。
夏にはクヌギやコナラの樹液に集まるカブトムシやクワガタムシ、春には草原を舞うチョウ、秋にはバッタの仲間たちなど、季節ごとに主役が変わるのも魅力です。自分の足で歩き、自分の目で探し、自分の手でそっと触れて観察する体験は、図鑑を見るだけでは得られない深い感動を与えてくれます。
園の中心施設である昆虫観察館は、ガラス張りの大きな温室が印象的な建物です。館内では、里山の生きもののほか、ヘラクレスオオカブトやギラファノコギリクワガタなど、世界の昆虫を一年を通して観察することができます。希少となったゲンゴロウやタガメなど、水辺の昆虫も生体展示されており、間近でその姿をじっくり見ることができます。
特に人気なのが、亜熱帯の植物が生い茂る昆虫ふれあい温室です。滝が流れる温室内では、日本最大級のチョウであるオオゴマダラをはじめ、色とりどりのチョウが優雅に舞い、幻想的な光景が広がります。天候に左右されず楽しめるため、雨の日や冬の来園でも充実した時間を過ごせます。
ぐんま昆虫の森では、自然観察プログラムや里山歩き、昆虫クラフト体験など、多彩な体験型プログラムが実施されています。スタッフの案内で園内を巡る里山歩きは、初心者にも分かりやすく、昆虫と植物、環境とのつながりを学ぶ絶好の機会です。
館内のクラフトコーナーでは、カイコのまゆや木の実など自然素材を使った工作体験ができ、楽しみながら創造力を育むことができます。また、フォローアップ学習コーナーには多くの専門書や図鑑がそろい、フィールドで出会った昆虫についてさらに深く調べることができます。
園内北側には、明治時代初期に建てられた養蚕農家を移築・復元した赤城型民家があり、桐生市指定重要文化財にも指定されています。茅葺き屋根の堂々とした姿は、かつて養蚕が地域の重要な産業であったことを物語っています。
この民家では、5月から10月にかけて実際にカイコを飼育し、桑くれやまゆかき、座繰りといった養蚕体験が行われます。囲炉裏の煙が立ちのぼる土間や、畳敷きの座敷など、昔ながらの暮らしの様子を体感できる貴重な空間です。庭先では竹ぽっくりやけん玉などの昔遊びも楽しめ、世代を超えた交流の場となっています。
ぐんま昆虫の森は、単に昆虫を展示する施設ではありません。人の手によって管理されてきた雑木林や田畑が、いかに多様な生きものを支えているかを学ぶことができる場所です。かつて炭や落ち葉堆肥のために手入れされてきた雑木林は、昆虫たちにとっても暮らしやすい環境でした。人と自然が共に生きる里山の知恵を、ここで実感することができます。
また、不二山の山頂からは周囲の景色を見渡すことができ、自然と歴史が重なり合うこの地域の魅力を感じられます。春にはヤマツツジが咲き、花に集まるチョウの姿を見ることもできます。
本施設は日本国内で唯一、教育委員会が運営する昆虫専門施設として整備されました。採算性よりも教育的価値を重視し、子どもたちが自然と向き合い、命の尊さを学ぶ場としての役割を担っています。
森の中を歩けば、風に揺れる葉の音や虫の羽音が聞こえてきます。小さな命に目を向けることで、自然の奥深さやつながりを実感できる――それがぐんま昆虫の森の最大の魅力です。里山の四季を感じながら、昆虫たちと出会う特別な時間を、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。