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上野村 亀甲石 産地

(うえのむら きっこうせき さんち)

大地が描いた自然の芸術

上野村亀甲石産地は、群馬県多野郡上野村楢原に所在する、国指定天然記念物の地質遺産です。ここは、亀の甲羅のような独特の模様を持つ「亀甲石(きっこうせき)」が産出することで知られています。指定の対象は石そのものではなく、亀甲石が産出する「地質学的に貴重な産地」である点が特徴です。

上野村で見られる亀甲石は、直径数センチメートルから数十センチメートルほどで、確認されている最大級のものは直径約73センチメートルにも及びます。扁平な球状または楕円球状をしており、表面に刻まれた亀甲状の線模様が強い印象を与えます。

亀甲石とは何か ― 地質学が解き明かす正体

亀甲石とは特定の岩石名ではなく、その形状や模様を指す名称です。地質学的には「セプタリアン・コンクリーション(septarian concretion)」と呼ばれる団塊(ノジュール)の一種で、天然コンクリートのような構造を持ちます。

上野村の亀甲石は、泥質砂岩中に含まれた石灰質成分が長い年月をかけて集積し、続成作用(堆積後の圧縮や化学変化)によって形成されたものです。形成過程で内部に生じた割れ目に炭酸塩鉱物などが沈殿し、それが亀甲状の模様として残りました。

菊花石や忍ぶ石と同様に、生物の化石ではなく、無機的な自然現象によって生まれた「偽化石」の一種とされています。そのため、地質学的にも美術的にも価値の高い存在です。

国指定天然記念物としての価値

上野村楢原の神流川左岸にある山腹は、通常は地中に含まれている亀甲石が露頭として現れ、産出状態を観察できる貴重な場所でした。この学術的価値が評価され、1938年(昭和13年)8月8日に国の天然記念物に指定されました。

ただし現在は、工事による法面の吹き付けなどの影響により、指定地周辺で産出状態を直接観察することは難しくなっています。また、指定は「産地」に対するものであるため、土地改変を伴う採集は文化財保護法により厳しく禁止されています。

天然記念物指定以前に採集された亀甲石は、川の駅上野「上野村ふれあい館」や、富岡市の群馬県立自然史博物館などで展示・保存されており、見学することが可能です。

上野村の地質と亀甲石の成因

上野村は群馬県最南西端に位置する山間の村で、秩父山地に囲まれています。この地域の地質は、中生代ジュラ紀の秩父帯と、白亜紀の山中地溝帯と呼ばれる地層から構成されています。

亀甲石が産出するのは、その中でも最も古いとされる「石堂層」と推定されています。暗灰色の細粒な泥質砂岩の中に石灰質の団塊が形成され、その一部が亀甲状の割れ目模様を持つことで亀甲石となりました。

かつてこの一帯が浅い海であった時代、海底に堆積した泥や砂の中で石灰成分が集中し、硬い団塊を形成します。その後、脱水や収縮により表面に亀裂が生じ、その割れ目を炭酸塩鉱物が埋めることで現在の亀甲模様が完成しました。ただし、なぜ六角形状に割れるのかについては、いまだ完全には解明されていません。

秩父山地と亀甲石の歴史

亀甲石はヨーロッパやアメリカでは19世紀から地質学の教科書に掲載されるなど広く知られていましたが、日本では長らく一般的ではありませんでした。明治40年(1907年)に地質学者・脇水鉄五郎が奥秩父産の亀甲石を学会に報告したことが、日本における学術的研究の始まりとされています。

江戸時代後期には、その珍しい形状から水石として愛石家に珍重され、盆石として鑑賞されることもありました。現在では、奥秩父から上野村、さらに長野県佐久地方へと続く地層中に、多くの類似例や化石が含まれていることが推定されています。

観察ポイントと見学情報

指定地周辺

天然記念物指定地には案内標識がほとんど残っておらず、正確な位置の把握は容易ではありません。国土地理院の地形図には文化財を示す記号が記載されていますが、現地では明確な表示が少ないのが現状です。

なお、指定地ではありませんが、楢原地区の弁天橋付近から神流川上流を望むと、川岸の黒い泥岩中に白色の亀甲模様が見られる箇所があり、堆積岩中に含まれる亀甲石の様子を観察することができます。

展示施設

川の駅上野「上野村ふれあい館」では、上野村産の亀甲石が展示されています。岩相は一様ではなく、さまざまなタイプが見られ、地質の奥深さを体感できます。

アクセス情報

所在地

群馬県多野郡上野村楢原大字楢原堂所明ヶ沢

公共交通機関

上信電鉄上信線「下仁田駅」より上野村乗合タクシーを利用し、「上野村ふれあい館」下車。所要時間約65分。

自動車利用

上信越自動車道「下仁田IC」より県道45号下仁田上野線(湯の沢トンネル経由)を利用し、約30km、車で約35分。

地球の歴史を感じる旅へ

上野村亀甲石産地は、数千万年以上の時を経て形成された地球の営みを間近に感じられる場所です。現在は産出状況を直接観察することは難しいものの、展示施設や周辺の地形を巡ることで、その成り立ちや価値を深く理解することができます。

十石峠や神流川流域の自然とあわせて訪れれば、上野村の豊かな地質と歴史をより一層実感できることでしょう。自然が生み出した不思議な造形美に触れながら、大地の物語に思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

Information

名称
上野村 亀甲石 産地
(うえのむら きっこうせき さんち)

富岡・下仁田

群馬県