アプトの道は、群馬県安中市に整備された遊歩道で、かつての旧国鉄信越本線(横川駅~軽井沢駅間)の廃線跡を活用した歴史的散策路です。明治期に日本で初めて導入されたアプト式鉄道の軌道敷を利用して整備されており、鉄道遺産としても極めて価値の高い存在です。現在は横川駅から旧熊ノ平信号場までのおよそ6キロメートルが開放され、四季折々の自然とともに、碓氷峠の近代化の歩みを体感できる人気のハイキングコースとなっています。
アプトの道は、旧上り本線の線路跡を整備して造られました。道中には6つの橋梁と10の隧道(トンネル)が現存し、日本最大級のレンガ造りアーチ橋「めがね橋(碓氷第三橋梁)」をはじめとする煉瓦構造物群に間近で触れることができます。
碓氷峠に残る煉瓦造りの橋梁7基、隧道11基、変電所3棟は、1993年に「旧碓氷峠鉄道施設」として国の重要文化財に指定されました。また、これらの施設群は近代化産業遺産にも認定され、日本の鉄道技術史を物語る貴重な文化資源として評価されています。
起点はJR信越本線横川駅。駅から徒歩約3分で遊歩道入口に到着します。道は比較的緩やかですが、かつては急勾配を克服するためのアプト式鉄道が走っていたことを思うと、その地形の厳しさを実感できます。
道中に現れる旧丸山変電所は、明治45年に信越線が幹線鉄道として初めて電化された際に建設された煉瓦造りの施設です。蓄電池室と機械室が残り、外観見学が可能です。峠越えの鉄道運行を支えた重要なインフラとして、当時の最先端技術を今に伝えています。
途中には日帰り温泉施設「峠の湯」があり、散策途中の休憩にも便利です。さらに歩みを進めると、碓氷湖を望む絶景ポイントも現れます。湖面に映る新緑や紅葉は見事で、特に秋の紅葉シーズン(11月上旬~中旬頃)は多くの来訪者で賑わいます。
アプトの道最大の見どころが、4連アーチの壮大な煉瓦橋「めがね橋」です。橋の下から見上げる迫力は圧巻で、階段を登れば橋上から周囲の山並みを一望できます。明治の土木技術と芸術性が融合したその姿は、訪れる人々に深い感動を与えます。
終点となる旧熊ノ平信号場は、かつての駅施設の名残を残す歴史的スポットです。ここまでの全長は約5.9km。往路はおよそ125分、復路は約96分が目安です。
旧下り本線では、「碓氷峠鉄道文化むら」から峠の湯までの約2.6kmをトロッコ列車「シェルパくん」が運行しています。こちらはテーマパーク内のアトラクション扱いとなっており、乗車には入園券が必要です。土休日および特定日に運転され、冬季は運休となります。
旧線は1963年に廃止されましたが、1996年より廃線跡の整備が始まり、2001年に横川駅~めがね橋間が開通しました。その後、2012年には旧熊ノ平信号場まで延伸され、現在の全長となりました。
整備にあたっては、国立公園内での工事許可や電線敷設の問題など多くの課題がありましたが、地域の努力により完成しました。トンネル内には午前7時から午後6時まで照明が点灯しますが、夜間は消灯するため注意が必要です。
公共交通機関を利用した1泊2日のモデルコースも人気です。軽井沢駅からバスでめがね橋へ向かい、アプトの道を散策。その後、碓氷峠鉄道文化むらを見学し、JRで磯部温泉へ向かう行程です。
碓氷川河畔に広がる磯部温泉は、中山道の宿場町として栄えた歴史ある温泉地です。塩分を含む無色透明の湯は体を芯から温め、「温泉マーク発祥の地」としても知られています。名物の磯部せんべいやアユ料理など、素朴な味覚も旅の楽しみです。
所在地:群馬県安中市松井田町横川・坂本地内
アクセス:上信越自動車道松井田妙義ICより車で約7分/JR信越本線横川駅より徒歩約3分
駐車場:碓氷湖、めがね橋付近、旧熊ノ平信号場(いずれも大型バス可)
開放時間:通年終日開放(トンネル照明は7:00~18:00)
アプトの道は、単なる遊歩道ではありません。そこには、日本の近代化を支えた鉄道技術の軌跡、峠という難所に挑んだ先人たちの努力、そして豊かな自然との調和があります。
歴史を学び、自然を感じ、心地よい汗を流す。そんな体験ができるアプトの道は、家族旅行にも、歴史探訪にも、写真撮影にも最適なスポットです。碓氷峠の風を感じながら、時代を超える旅へ出かけてみてはいかがでしょうか。