群馬県 > 富岡・下仁田 > 国指定重要文化財 旧黒澤家住宅(群馬県 上野村)

国指定重要文化財 旧黒澤家住宅(群馬県 上野村)

(きゅう くろさわけ じゅうたく)

上野村に息づく山里の歴史

旧黒澤家住宅は、群馬県多野郡上野村に所在する貴重な古民家で、1970年(昭和45年)6月17日に国の重要文化財に指定されました。1979年(昭和54年)以降は上野村が所有し、地域の歴史と文化を今に伝える施設として大切に保存・公開されています。

19世紀中頃に建てられたと推定されるこの建物は、間口約22メートル、奥行約16メートルという堂々たる規模を誇る総二階建ての切妻造り。山深い上野村の地にありながら、当時の名主階層の威厳と格式を色濃く残す建築として、高い歴史的価値を有しています。

山中領を治めた旧家の系譜

江戸時代、徳川幕府が江戸に政権を置くと、現在の上野村や神流町、旧美原村の一部は幕府直轄領(天領)となり、「山中領」として支配されました。山中領は上山郷・中山郷・下山郷の三郷に分けられ、27代にわたる代官が統治しました。

黒澤家は、代々上山郷の大総代を務めた旧家であり、地域行政の中心的存在でした。伝承によれば、黒澤家は桓武平氏の流れをくむ家柄とされ、戦国時代には北条氏に仕えたとも伝えられています。北条氏滅亡後にこの地へ移り住み、江戸時代を通じて広い範囲の統括を担いました。

当時、上山郷には27か所の鷹の保護地区が設けられ、将軍家へ「鷹狩り」のための巣鷹を献上していました。黒澤家は御林守として御巣鷹山の管理にも携わり、幕府と深い関わりを持っていたことがうかがえます。

圧倒的な規模と格式を備えた建築

旧黒澤家住宅は、木造二階建・切妻造・板葺石置屋根という形式で建てられています。建築面積は約348平方メートルに及び、一般的な農家建築と比較してもその規模の大きさは際立っています。

屋根には、山間地の環境に適した栗の板屋根が採用されています。長さ約30センチ、厚さ約6ミリの栗板を重ね、その上に石を置いて強風から守る工夫がなされています。展示住宅では約1100束の栗板と3400個もの押さえ石が使用され、山村ならではの知恵と技術を今に伝えています。

三つの玄関が物語る家格の違い

建物南面には「トボーグチ(大戸口)」「ムラゲンカン」「式台」という三つの玄関が設けられています。日常生活では土間へ通じる大戸口を使用し、村の行事など公的な場面ではムラゲンカンが使われました。

そして最も格式の高い玄関が「式台」です。代官などの特別な来客が駕籠で乗り付けることを想定し、低い位置に床板が張られています。式台の奥には、時代劇で目にする「おしらす」と呼ばれる空間が続き、一般農家とは異なる威厳ある造りを感じさせます。

31畳半の「ちゃのま」と豪華な神棚

家の中心となるのが、31畳半もの広さを誇る「ちゃのま」です。中央には囲炉裏が据えられ、一部は吹き抜け構造となっています。主人の座の背後には、城郭を思わせる高さ約2メートルの豪華な神棚が設けられており、家の格式を象徴する存在です。

ちゃのまの周囲には「主人ベヤ」「女ベヤ」「キャクマ」「ナンド」などの居室が配置され、機能的かつ重層的な空間構成となっています。

四つの座敷と精緻な意匠

西側には「休息の間」「中の間」「中段の間」「上段の間」の四室が南北に並ぶ続き間の座敷があります。幕府の代官などが訪れた際に使用された格式高い空間で、「上段の間」には床の間や違い棚、平書院が備えられています。

特に見どころとなるのが、「上段の間」と「中段の間」の境にある透かし彫りの欄間です。表と裏で異なる意匠が施され、細部に至るまで高度な技術と美意識が息づいています。

養蚕を支えた広大な二階空間

二階は仕切りのない広い板の間となっており、養蚕のための空間として利用されていました。南側には窓が並び、光と風を取り込む工夫がなされています。炉や養蚕火鉢が置かれ、繭の育成に適した環境が整えられていました。

現在は展示コーナーとして、上野村の「衣・食・住」や「生産・生業」に関する民具が紹介されています。養蚕や機織り、紙漉き、炭焼きなど、山村の暮らしを支えた営みを学ぶことができます。

養蚕・機織り・紙漉きの文化

水田に恵まれない山間地では、養蚕は重要な収入源でした。桑畑が広がり、繭の生産が盛んに行われました。女性たちは屑繭から糸を取り、地機を使って一本一本丁寧に織り上げる機織り技術を身につけていました。

また、楮を原料とする和紙の生産も盛んで、障子紙や延紙、蚕紙などが漉かれていました。こうした生業は、山里の生活を支える重要な文化でした。

観光スポットとしての魅力

旧黒澤家住宅は、単なる歴史的建造物ではなく、上野村の歴史と文化を体感できる貴重な観光スポットです。建物の壮大さや細部の意匠を間近に見ることで、江戸時代の山村社会の姿を具体的に感じることができます。

最寄りのバス停「学園入口」から徒歩約2分、上信越自動車道下仁田インターチェンジから車で約35分と、アクセスも良好です。周辺には清流神流川や不二洞などの観光地も点在しており、上野村観光とあわせて訪れるのに最適な場所です。

時を超えて受け継がれる山里の誇り

重厚な柱や梁、広大な座敷、栗の板屋根――。旧黒澤家住宅には、山深い地で力強く生きた人々の歴史と誇りが刻まれています。国指定重要文化財として守り継がれるこの建物は、上野村の文化的象徴ともいえる存在です。

静かな山里に佇む歴史ある古民家で、往時の暮らしと地域の歩みに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。きっと、上野村の奥深い魅力に触れるひとときとなることでしょう。

Information

名称
国指定重要文化財 旧黒澤家住宅(群馬県 上野村)
(きゅう くろさわけ じゅうたく)

富岡・下仁田

群馬県