群馬県 > 富岡・下仁田 > 上野楢原のシオジ林

上野楢原のシオジ林

(うえの ならはら シオジりん)

渓流とともに息づく原生の森

上野楢原のシオジ林は、群馬県多野郡上野村楢原に位置する、国指定の天然保護区域(天然記念物)です。神流川上流部の支流・北沢の渓流沿いに広がる原生的なシオジ林で、日本国内でも極めて貴重な自然環境として高く評価されています。

天然保護区域とは、国指定天然記念物の中でも「保護すべき天然記念物に富んだ代表的一定の区域」として定められた特別な区分であり、その指定数は全国でわずか23区域のみです。上野楢原のシオジ林は1969年(昭和44年)7月25日に指定され、本州の内陸部にある数少ない天然保護区域のひとつとして、学術的にも観光的にも重要な存在となっています。

関東屈指の貴重な天然保護区域

国の天然保護区域23件のうち、関東地方に所在するのは4件のみです。そのうち2件は東京都の島嶼部に位置しており、本土側にあるのは「尾瀬」と、この上野楢原のシオジ林の2か所だけです。関東山地の奥深くに、これほど原生的な森が残されていることは、大変貴重なことといえるでしょう。

シオジとはどのような樹木か

シオジ(学名:Fraxinus platypoda)はモクセイ科トネリコ属の落葉広葉樹で、主に本州から九州にかけての太平洋側山間部、標高400mから1,700mほどの渓流沿いに生育します。水量の豊かな谷沿いに成立する「渓畔林(けいはんりん)」の代表的な樹種です。

直立した美しい主幹を持ち、木目も優れていることから、古くより家具材や建具材として珍重されてきました。特にドア材としては高級材とされるほどで、その有用性ゆえに各地のシオジ林は伐採が進み、純林はほとんど姿を消してしまいました。

しかし、上野楢原のシオジ林は宝暦年間(18世紀中頃)以来伐採されていないと伝えられ、原生的な姿を今に残しています。

北沢渓流に広がる純林の景観

天然保護区域は標高約920mから1,680mの範囲に広がり、とりわけ北沢上流部の細尾沢周辺には、全国的にも珍しいシオジの純林が形成されています。樹高35mから40mを超える巨木が立ち並び、谷を覆うように繁茂する姿は圧巻です。

シオジのほかにも、サワグルミ、トチノキ、イタヤカエデ、カツラなどの落葉広葉樹が混生し、林床にはミヤマイラクサやギンバイソウ、シダ類が群生します。水の流れと岩場、豊かな植生が織りなす景観は、訪れる人に深い静寂と癒やしをもたらします。

さらに、カモシカや多様な野鳥なども生息しており、植物相だけでなく動物相も豊かな生態系が保たれています。

見学方法と自然体験

このシオジ林へは車道が通じておらず、北沢沿いに整備された登山道を徒歩で訪れる必要があります。上野村営温泉施設「しおじの湯」から片道約5km、往復約10km強の道のりを歩く本格的な自然散策コースです。所要時間は往復でおよそ6時間が目安となります。

道中は清流のせせらぎを聞きながら歩く山道で、四季折々の風景が楽しめます。新緑の季節には柔らかな若葉が谷を彩り、秋には紅葉が渓谷を鮮やかに染め上げます。自然と一体となる体験ができる、上級者向けのトレッキングスポットといえるでしょう。

シカによる食害と保全への取り組み

近年、上野村周辺ではニホンジカの個体数が増加し、シオジの稚樹が食べられる食害が確認されています。特に次世代を担う若木が減少していることが懸念されており、林床植生の衰退も報告されています。

この貴重な森を未来へ受け継ぐため、行政や関係機関による保護対策が検討されており、個体数管理や防護柵の設置など、さまざまな取り組みが進められています。

アクセス情報

所在地

群馬県多野郡上野村楢原

公共交通機関

上信電鉄上信線「下仁田駅」より上野村乗合タクシーを利用し、終点「上野村ふれあい館」まで約65分。

自動車利用

上信越自動車道「下仁田IC」より県道45号下仁田上野線(湯の沢トンネル経由)で約30km、車で約35分。「しおじの湯」駐車場を起点に登山道へ入ります。

大自然と向き合う特別な時間

上野楢原のシオジ林は、静かな渓谷の奥に守られてきた原生の森です。人工の手がほとんど入らない環境の中で、何百年もの時を重ねてきた巨木が立ち並ぶ光景は、訪れる人に自然の偉大さと尊さを実感させてくれます。

容易にたどり着ける場所ではありませんが、その分だけ深い感動が待っています。自然を大切にしながら、未来へと受け継がれるべき貴重な森を、ぜひ静かな気持ちで歩いてみてはいかがでしょうか。

Information

名称
上野楢原のシオジ林
(うえの ならはら シオジりん)

富岡・下仁田

群馬県