神津牧場は、1887年(明治20年)に開設された日本最古の西洋式牧場として知られています。群馬県甘楽郡下仁田町、妙義荒船佐久高原国定公園内の標高約1,000メートルの高原に広がり、明治の近代化の息吹とともに歩んできた歴史ある牧場です。開設から130年以上を経た現在も、当時の理念を大切に守りながら、自然と共生する酪農を続けています。
牧場は物見山の東斜面、標高850〜1,375メートルのなだらかな高原地帯に位置しています。総面積は約387ヘクタールにおよび、そのうち約100ヘクタールが牧草地、約261ヘクタールが森林、そして約26ヘクタールが施設用地です。四季折々に表情を変える雄大な自然環境は、訪れる人々に深い安らぎを与えてくれます。
広大な敷地には、茶色い毛並みが愛らしいジャージー牛を中心に、ヤギやポニーなども放牧されており、アルプスの高原牧場を思わせる美しい景観が広がります。澄んだ空気と青空、草原を渡る風、そして牛たちの穏やかな姿が、日常を忘れさせる特別な時間を演出してくれます。
毎日13時過ぎになると、放牧地から牛舎へ向かう約90頭の牛の行列を見ることができます。ゆったりと歩く牛たちの姿は圧巻で、神津牧場を代表する名物のひとつです。見学エリアは日によって異なるため、当日はスタッフへ確認するとよいでしょう。
神津牧場では、動物とのふれあいを通して命の大切さや酪農への理解を深める体験プログラムが充実しています。
乳しぼり体験やバターづくり体験は特に人気があります。自分の手で搾った牛乳や、クリームから作るバターは格別の味わいです。
小さなお子様にも人気のポニー乗馬や、お散歩ヤギ体験は、家族連れにおすすめです。
土曜日限定で行われる牛追い体験ツアーでは、夕方に牛たちを放牧地へ誘導します。普段は味わえない本格的な牧場作業を体験できる貴重な機会です。
牧場内には宿泊可能なロッジがあり、登山者だけでなく一般の観光客も利用できます。夏季にはキャンプも可能で、飯ごう炊さんやたき火体験も楽しめます。
親水公園ではバーベキューが可能で、自然の中で味わう食事は格別です。また、薪で沸かす昔ながらの五右衛門風呂も設置されており、自然体験をより深めてくれます。
標高1,375メートルの物見山へ向かう約2時間30分のコース。妙義山越しに関東平野を望む絶景が広がります。
軽井沢方面の眺望が美しいコースで、片道1〜2時間程度の比較的歩きやすいルートです。
標高1,422.5メートルの荒船山を目指すコースで、登り約2時間10分。雄大な自然を体感できます。
75℃で15分間殺菌する低温殺菌製法により、搾りたての風味を生かした牛乳は、濃厚で香り高い味わいが特徴です。
のむヨーグルトはとろりとした舌触りとさわやかな後味が魅力です。発酵バターは芳醇な香りが特長で、夏場の「ゴールデンバター」は特に人気があります。チーズはチェダーやゴーダ、モッツァレラなど多彩な種類が揃っています。
神津牧場のソフトクリームは、売店に行列ができるほどの人気商品です。濃厚でありながら後味はすっきりとしており、牧場ならではの新鮮な味わいを楽しめます。
神津牧場は、長野県北佐久郡志賀村(現在の佐久市志賀)出身の神津邦太郎によって開設されました。明治20年という早い時期に西洋式牧場を導入したことは、日本の近代酪農史において画期的な出来事でした。当時の日本ではまだ本格的な酪農は広く普及しておらず、神津邦太郎の先見性と挑戦心がこの牧場の礎となりました。
その後、1921年(大正10年)には実業家・田中銀之助へ譲渡され、さらに1935年(昭和10年)には明治製菓(後の明治乳業)へと経営が移ります。戦後の1945年(昭和20年)には、生糸商・石橋治郎八の篤志寄付を受けて財団法人化され、公共性の高い牧場として新たな歩みを始めました。
そして2013年(平成25年)には公益認定を受け、現在は公益財団法人神津牧場として運営されています。営利のみを目的とせず、酪農の振興や教育・研究活動にも力を注ぐ姿勢は、創設以来の精神を今に伝えています。
神津牧場では、約150頭のジャージー牛を飼養しています。ジャージー牛は乳脂肪分が高く、濃厚でコクのある牛乳を生産することで知られています。牧場では、牛乳の製造だけでなく、ソフトクリーム、バター、チーズ、ヨーグルトなどの加工技術の開発にも積極的に取り組んでいます。
また、農業大学校や専門学校からの実習生・研修生の受け入れ、農研機構などの研究機関との共同研究も行い、酪農技術の向上と後継者育成に貢献しています。
上信電鉄下仁田駅からしもにたバス市野萱線で約45分、終点下車後徒歩約90分です。自家用車の利用が便利で、自然豊かな山道を進んだ先に牧場が広がります。
神津牧場は、日本酪農発祥の地としての歴史と、豊かな自然、そして体験型観光の魅力を兼ね備えた特別な場所です。標高1,000メートルの澄んだ空気の中で、牛たちとふれあい、濃厚な乳製品を味わい、自然と共に過ごす時間は、訪れる人の心に深い印象を残します。明治から続く牧場の精神を感じながら、ぜひ一度その魅力を体験してみてはいかがでしょうか。