十石峠は、長野県南佐久郡佐久穂町と群馬県多野郡上野村の県境に位置する峠で、標高1,351メートルを誇ります。妙義荒船佐久高原国定公園の最南端にあたり、雄大な山岳風景に囲まれた自然豊かな場所です。かつては信州と上州を結ぶ重要な交通路として栄え、現在も歴史と自然を同時に感じられる観光・ハイキングスポットとして親しまれています。
十石峠の名は、江戸時代に信州佐久盆地から上州西部の山間地域へ、一日に十石(約1,500kg)の米が運ばれていたことに由来すると伝えられています。当時、米の生産が難しかった上州側へ、信州から米や味噌、醤油などが馬によって運ばれ、その代わりに炭や和紙などが信州へと運ばれていました。
寛永8年(1631年)には白井関所が設けられ、中山道の脇往還として多くの人々が往来しました。往来する馬子たちが口ずさんだ「十石馬子歌」は、当時のにぎわいを今に伝えています。また、明治17年の秩父事件の際には、困民党軍の一部がこの峠を越えて敗走した歴史もあり、十石峠は時代の転換点を見守ってきた場所でもあります。
現在、峠は国道299号および国道462号の一部となっています。峠周辺には展望塔が設けられており、補修工事を経て現在は利用可能となっています。展望塔からは、妙義荒船佐久高原国定公園の山並みを一望でき、晴れた日には広がる稜線の美しさに心を奪われます。
春は新緑、夏は深い緑、秋は紅葉、冬は澄んだ空気と雪景色と、四季それぞれに異なる表情を楽しめるのも魅力の一つです。標高が高いため、夏でも比較的涼しく、爽やかな風を感じながら自然散策ができます。
歴史をより身近に感じたい方には、旧十石街道の散策がおすすめです。上野村ふれあい館駐車場を起点に、白井関所跡を経て山道へと進みます。関所跡には、設置当時に代官・大河内金兵衛が植えたと伝えられる県指定天然記念物のイチイの巨木(樹高約15メートル、幹周約2.6メートル)があり、往時の面影を静かに伝えています。
森の中の旧街道沿いには道祖神なども点在し、歴史の息吹を感じながら歩くことができます。切り通しを抜け、矢弓沢林道方面へ進み、清流荘分岐を経てふれあい館へ戻る周回コースは、自然と歴史を同時に楽しめる魅力的なルートです。
上野村ふれあい館 → 約10分 → 白井関所跡 → 約5分 → 旧十石街道入口 → 約30分 → 切通し → 約50分 → 林道矢弓沢線 → 約30分 → 清流荘分岐 → 約20分 → 上野村ふれあい館
マイカーの場合は、上野村ふれあい館の駐車場を利用できます。公共交通機関では、JR新町駅から上野村ふれあい館行きのバスで終点下車となります。
周辺には「上野村ふれあい館」や「上野村クラフトマンショップこかげ」などの立ち寄り施設もあり、地元の特産品や工芸品を楽しむことができます。ハイキング後の休憩にも最適です。
十石峠を通る国道299号は、道幅が狭く路面状態も万全とはいえない区間があり、しばしば「酷道」と称されることもあります。大型車は通行できず、普通車同士のすれ違いも困難な箇所があります。舗装はされていますが、砂利や砂が浮いている部分もあり、慎重な運転が必要です。
台風や大雨による土砂崩れで通行止めとなることもあり、冬季(例年12月下旬から4月上旬頃)は積雪のため閉鎖されます。近年では災害による長期通行止めもありましたが、復旧工事により現在は群馬・長野県間の通行が可能となっています。訪問前には最新の道路情報を確認することをおすすめします。
現在、抜本的な対策として国道299号十石道路の整備計画が進められており、将来的な安全性向上が期待されています。
十石峠は、単なる県境の峠ではなく、信州と上州を結び、人々の暮らしと歴史を支えてきた重要な道です。静かな山道を歩けば、かつて馬子たちが行き交った往時の姿を思い描くことができるでしょう。
豊かな自然と深い歴史が調和する十石峠は、ハイキングやドライブ、歴史探訪を楽しみたい方にとって魅力あふれる観光地です。四季折々の風景とともに、ぜひその奥深い魅力を体感してみてはいかがでしょうか。