群馬県 > 草津・四万 > チャツボミゴケ公園(群馬鉄山跡)
群馬県吾妻郡中之条町六合(くに)地区に位置するチャツボミゴケ公園は、かつて群馬鉄山(旧草津鉱山)として鉄鉱石の採掘が行われていた場所を整備した自然公園です。草津白根山の火山活動によって形成された特異な地形と強酸性の鉱泉環境の中で、日本最大級のチャツボミゴケ群生地が広がる、全国でも非常に珍しい観光スポットです。
現在は、芳ヶ平湿地群の重要な構成要素の一つとして、ラムサール条約登録湿地にも含まれ、学術的にも観光資源としても高く評価されています。
この地域は、草津白根山の噴火活動によって形成された難透水性土壌や凹地、クレーター上に発達した湿原群の一角にあたります。周辺には芳ヶ平湿原や大平湿原、火口湖の湯釜などが点在し、階段状に湿地や池沼、河川が連なる独特の景観を形成しています。
標高1,832mの芳ヶ平湿原や標高1,600mの大平湿原は、温帯針葉樹林帯に広がる代表的な中間湿原です。酸性水質と地熱の影響、高温の伏流水などが複雑に関わり合い、他では見られない植生が発達しています。
チャツボミゴケ公園の中心的存在が「穴地獄」と呼ばれるすり鉢状の地形です。ここは草津白根山の噴火によって生じた窪地であり、元山川の源流部にあたります。地中から湧き出す鉱泉は水温約20℃前後、pH2.6〜2.9という強酸性を示し、鉄イオンや硫酸イオンを多く含んでいます。
この過酷な環境の中で繁茂するのがチャツボミゴケです。鮮やかな緑色の絨毯のように一面を覆うその姿は、訪れる人々に強い印象を与えます。本州では極めて貴重な存在であり、東アジア最大級の群生地といわれています。
チャツボミゴケ群生地は、2015年5月28日にラムサール条約湿地に登録され、さらに2017年2月9日には「六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地」として国指定天然記念物に指定されました。植物群落としてだけでなく、鉄鉱石生成の地質学的価値も含めて高く評価されています。
現在は遊歩道が整備され、見学エリアから安全に群生地を観察することができます。近年ではパワースポットとしても紹介され、テレビなどのメディアを通じて広く知られるようになりました。
この地はかつて「群馬鉄山」または「草津鉱山」と呼ばれ、褐鉄鉱や鉄明礬石を産出していました。鉄鉱は、強酸性鉱泉に含まれる鉄イオンを、チャツボミゴケや鉄バクテリアが取り込み、その副産物として沈殿することで形成されます。崖部の鉱床の年代測定からは、鉄鉱の生成が1万年以上前から続いていることが示されています。
本格的な採掘は1943年、戦時中の金属資源不足を背景に開始されました。日本鋼管鉱業が開発を進め、長野原線(後の吾妻線)や太子駅までの専用鉄道、さらに索道(ロープウェイ)を整備し、鉄鉱石を輸送していました。
戦後もしばらく露天掘りが続けられましたが、1965年に資源の枯渇により採掘は停止。現在ではその跡地が自然公園として再生され、産業遺産と自然遺産が融合した貴重な場所となっています。
芳ヶ平湿地群全体では、植物442種、動物20種、野鳥62種、トンボ14種が確認されています。ヌマガヤ、ツルコケモモ、ワタスゲ、ミズバショウなどの湿原植物が広がり、平兵衛池や大池、水池には多様な水生植物が見られます。
また、この地域はモリアオガエルの日本最高標高(約2,150m)での繁殖地としても知られています。強酸性環境のため魚類が少なく、天敵が少ないことから、水辺の草地に産卵するという特異な習性が観察されています。
ミサゴやニホンカモシカなどの希少動物も生息しており、学術的にも非常に重要なエリアです。
花敷温泉や尻焼温泉から車で約30分、熊倉地区に位置するチャツボミゴケ公園は、温泉観光とあわせて訪れることができる立地にあります。標高が高く、夏でも涼しい気候の中で散策を楽しむことができます。
また、近くの渋峠からは芳ヶ平湿地群を一望でき、「日本国道最高地点」として知られる展望スポットからの眺めも格別です。荒涼とした火山景観と、柔らかな湿原の緑との対比は、訪れる人に強い感動を与えます。
チャツボミゴケ公園は、火山活動という大地の営みと、人間の産業の歴史、そして繊細な自然生態系が交差する特別な場所です。過酷な強酸性環境の中で力強く生きるチャツボミゴケの姿は、自然の生命力を象徴しているかのようです。
今後も適切な保全と活用を通じて、この貴重な自然と歴史を次世代へ伝えていくことが求められています。六合の山深い地に広がる神秘の緑の世界を、ぜひゆっくりと歩きながら体感してみてはいかがでしょうか。