旧土岐家住宅洋館は、群馬県沼田市上之町の「大正ロマンエリア」に位置する西洋館で、国の登録有形文化財(建造物)に登録されている歴史的建築物です。大正時代後期に華族・土岐章子爵によって東京・渋谷(広尾)に建てられた邸宅の洋館部分を、ゆかりの地である沼田市へ移築・保存したもので、近代日本の上流住宅建築の姿を今に伝えています。
土岐氏は清和源氏の流れをくむ名門で、江戸時代には大坂城代・京都所司代・老中などを務めました。寛保2年(1742年)、土岐頼稔が初代沼田藩主となって以来、明治維新まで約129年間にわたり利根沼田地方を治めました。廃藩置県後、土岐家は東京へ移り、明治新政府より子爵に叙せられます。
その後、土岐章子爵が大正13年(1924年)、関東大震災後の東京・広尾に新たな邸宅を建設しました。これが現在の旧土岐家住宅洋館です。平成元年、章の子・實光氏から沼田市へ寄贈の申し出があり、平成2年に沼田公園へ移築。さらに令和2年には現在の上之町へ再移築され、大正ロマンエリアの中核的存在となりました。
設計は伊藤平三郎、施工は森田錠三郎。外観は当時のドイツで流行していたユーゲント・シュティール様式の影響を受け、黒灰色の天然スレート葺きの急勾配屋根や、牛の目状の換気窓(オイユ・ド・ブーフ)が特徴的です。1階は黄土色のドイツ壁仕上げ、基礎部には自然石の乱積みを配し、重厚かつ洗練された印象を与えます。
内部は洋室と和室を併せ持つ擬洋風建築で、華美な装飾を抑えながらも、白漆喰の壁やアーチ窓、落ち着いた意匠が当時の上質な暮らしを感じさせます。大正期の華族住宅の好例として高く評価されています。
旧土岐家住宅洋館が建つ上之町周辺は、「大正ロマンエリア」として整備が進められています。中心市街地活性化事業の一環として、明治末から大正期の歴史的建造物を移築・集約し、近代の趣を感じられる街並みを形成しています。
1908年(明治41年)頃に建てられた擬洋風建築で、群馬銀行の前身行の一つである沼田貯蓄銀行の旧社屋です。木造2階建て寄棟造で、漆喰壁や金唐革紙の天井など、明治期の銀行建築の特徴を今に伝えています。群馬県指定重要文化財に指定されています。
1914年(大正3年)に建てられた木造教会建築で、群馬県内でも古いキリスト教会堂の一つです。急勾配の屋根や縦長の窓が印象的で、現在は登録有形文化財として保存・公開されています。
1912年頃に東京・代々木上原に建てられた洋館で、かつては紀州徳川家ゆかりの迎賓館としても用いられました。2023年に沼田市へ移築され、重厚なタイル外壁や切妻屋根が往時の格式を伝えています。
歌人・生方たつゑ(1904~2000年)の業績を顕彰する文学館です。読売文学賞受賞作『白い風の中で』などの資料を展示し、短歌文化の魅力を広く発信しています。企画展やワークショップも開催され、文化交流の拠点となっています。
大正ロマンエリアは、歴史的建築物を巡る周遊券の販売やガイドツアーも実施されており、近代建築や文学に触れながらゆったりと散策を楽しめます。周辺には「テラス沼田」などの公共施設も整備され、まち歩きの拠点として便利です。
アクセスは、関越自動車道沼田ICから車で約10分。JR沼田駅からはバスで「上之町」下車、徒歩約1分と利便性にも優れています。
旧土岐家住宅洋館をはじめとする大正ロマンエリアの建築群は、単なる保存建物ではなく、地域の歴史や文化を未来へ継承する大切な資産です。かつて利根沼田を治めた土岐家の足跡や、大正期の華やかな建築文化に思いを馳せながら、ぜひ現地でその魅力をご体感ください。