群馬県沼田市上之町に位置する旧日本基督教団沼田教会紀念会堂は、大正時代の面影を今に伝える貴重なキリスト教建築です。現在は「大正ロマンエリア」の一角に移築され、周辺の歴史的建造物とともに、沼田市の新たな観光拠点として注目を集めています。登録有形文化財にも指定されており、地域の歴史と文化を体感できる重要な存在となっています。
旧沼田教会は、1914年(大正3年)に沼田市街地に建設されました。生糸貿易で栄えた星野家の寄附により建てられたもので、星野光多牧師や、後に津田塾大学長を務め沼田市名誉市民ともなった星野あいらの尽力によって誕生しました。群馬県内に現存するキリスト教会建築としては、1887年の名久田教会、1897年の島村教会に次いで古く、県内でも三番目に古い歴史を誇ります。
創建後、時代の流れとともに建物は幾度か移築されました。1988年(昭和63年)には西倉内町へ移され、「関口コオきり絵美術館」として活用されました。その後、沼田公園の再整備事業に伴い、2020年(令和2年)に現在の上之町・大正ロマンエリアへ再移築されました。
平成28年には前所有者から沼田市へ寄贈され、市が主体となって解体・修復・再移築を実施。歴史的価値を損なわないよう丁寧な保存作業が行われ、往時の姿をよみがえらせています。
建物はスレート葺き木造2階建てで、設計・施工は埼玉県和戸(現・宮代町)出身の大工・小菅幸之助によるものです。小菅は横浜海岸教会やフェリス女学院校舎なども手掛けた人物であり、その技術と美意識が本建築にも反映されています。
外壁は下見板張り、窓は縦長の上げ下げ窓(ギロチン窓)、そして急勾配の屋根が特徴的です。簡素ながらも気品ある意匠は、大正期の洋風建築の典型を示しており、当時の信仰と文化の広がりを今に伝えています。
旧沼田教会が建つ上之町周辺は、「大正ロマンエリア」として整備が進められている地区です。かつて利根沼田地域の商業中心地として賑わったこの場所は、近年の人口減少や空き店舗増加といった課題を抱えていました。
そこで沼田市は、中心市街地活性化を目的として、明治末から大正期にかけての歴史的建造物を移築・集約し、統一感ある街並みを形成する事業を推進しました。市役所を含む複合施設「テラス沼田」を中心に、文化と観光の拠点づくりが行われています。
1908年(明治41年)頃に建てられた擬洋風建築で、群馬銀行の前身の一つである沼田貯蓄銀行の旧社屋です。木造2階建て寄棟造で、漆喰壁や金唐革紙の天井など、明治期の金融建築の特色を今に伝えています。現在は一般公開され、内部見学も可能です。
1924年(大正13年)に東京・広尾で建てられた華族・土岐章子爵の邸宅を移築した西洋館です。ユーゲント・シュティール様式の影響を受けた外観が特徴で、牛の目窓や石積みのテラスなどが印象的です。内部には洋室と和室が共存し、大正期の上流住宅文化を感じることができます。
1912年(大正元年)頃に建築された洋館で、代々木上原にあった迎賓館的建物を移築したものです。戦災や改修を経ながらも保存され、2023年に沼田市へ移築されました。タイル張りの外壁や上げ下げ窓などに当時の意匠が残されています。
歌人・生方たつゑの功績を顕彰する文学館です。戦後を代表する女流歌人として活躍し、読売文学賞や迢空賞を受賞しました。館内には著書や資料、関連展示が充実しており、短歌の魅力に触れることができます。年3回の企画展やイベントも開催され、文化発信の拠点となっています。
大正ロマンエリアは、歴史的建築物を巡る周遊券の販売やツアーバスコースへの組み込みなど、観光地としての整備も進んでいます。各施設は徒歩圏内にまとまっており、ゆったりと街歩きを楽しむことができます。
洋風建築が立ち並ぶ街並みは写真映えも良く、四季折々の風景とともに大正時代の雰囲気を体感できます。歴史・文学・建築に興味のある方はもちろん、沼田観光の新たな魅力として幅広い世代におすすめできるエリアです。
・JR沼田駅より関越交通バス約6分、「上之町」下車徒歩すぐ
・関越自動車道沼田ICより車で約10分
旧日本基督教団沼田教会紀念会堂は、単なる歴史的建築物にとどまらず、沼田市のまちづくりと文化振興を象徴する存在です。移築を重ねながら大切に守られてきたその姿は、地域の歴史への敬意と未来への希望を感じさせます。
周辺の旧銀行建築や洋館、生方記念文庫とあわせて巡ることで、明治から大正、そして現代へと続く沼田の歩みを立体的に体験することができるでしょう。歴史と文化が織りなす「大正ロマン」の世界を、ぜひ現地で味わってみてください。