群馬県邑楽郡邑楽町中野にある曹洞宗の寺院永明寺の境内には、国の天然記念物に指定された「永明寺のキンモクセイ」が生育しています。キンモクセイは秋になると甘く芳しい香りを漂わせることで知られる樹木ですが、永明寺のキンモクセイはその中でも特に歴史と価値の高い名木として広く知られています。推定樹齢はおよそ750年ともいわれ、長い年月の中で地域の人々に親しまれながら今日まで大切に守られてきました。
キンモクセイ(金木犀、学名:Osmanthus fragrans var. aurantiacus)は、中国を原産とする常緑樹で、観賞用の樹木として江戸時代に日本へ伝えられました。甘く濃厚な香りを放つ橙色の小さな花が特徴で、日本では寺院や神社の境内などに植えられることが多く、秋の訪れを告げる植物として広く親しまれています。
日本全国で国の天然記念物に指定されているモクセイ類はわずか数件しかなく、その多くが寺社の境内に生育しています。永明寺のキンモクセイもそのひとつであり、群馬県伊勢崎市にある華蔵寺のキンモクセイと同じ1937年(昭和12年)6月15日に国の天然記念物として指定されました。古くから香り高い名木として知られていたことが、この指定につながりました。
永明寺は、1333年(元弘3年)に禅僧夢窓国師によって開かれたと伝えられる歴史ある寺院です。伝承によれば、このキンモクセイは寺院創建の頃に他の場所から移植されたもので、植えられた時点で既に100年ほどの樹齢を重ねていたといわれています。つまり、現在までの長い歴史の中で、多くの人々の祈りや暮らしを静かに見守り続けてきたことになります。
昭和初期に行われた調査では、樹高はおよそ16メートル、幹周りは約3メートル以上、枝張りは東西18メートル・南北14メートルに及ぶ巨大な樹木であったことが記録されています。枝は四方に大きく広がり、開花の時期には境内いっぱいに甘い香りが漂い、遠くまでその香気が届いたといわれています。
しかし、この歴史ある名木は1966年(昭和41年)9月に大きな試練に見舞われます。東日本に甚大な被害をもたらした台風によって主幹が折れ、巨木は倒れてしまいました。地面から根が持ち上がるほどの大きな被害で、一時は完全に枯れてしまうのではないかと心配されました。
その後、関係者や地域の人々による懸命な保護と管理が行われました。倒れた木の根元からは新しい芽が芽吹き、それが少しずつ成長していきました。いわゆる「ひこばえ」と呼ばれる芽が株立ちとなり、新しい幹として育ち始めたのです。
長い年月をかけて回復を続けたキンモクセイは、現在では樹高約7〜8メートルほどまで成長し、再び美しい姿を見せるようになりました。かつての巨木とは姿を変えながらも、その生命力によって天然記念物としての価値を守り続けています。
永明寺のキンモクセイは、毎年9月下旬から10月頃にかけて見頃を迎えます。無数の小さな橙色の花が咲き、境内にはやさしく甘い香りが広がります。その香りは訪れる人々の心を和ませ、秋の風情を感じさせてくれるものです。
静かな寺院の境内で歴史ある名木を眺めながら過ごす時間は、日常の忙しさを忘れさせてくれるひとときとなるでしょう。地域の文化財として大切に守られているこのキンモクセイは、邑楽町を訪れる際にぜひ立ち寄りたい観光スポットのひとつです。
群馬県邑楽郡邑楽町中野2933(永明寺境内)
・東北自動車道 館林インターチェンジから車で約30分
・東武小泉線 本中野駅から徒歩約10分
邑楽町の中心部に位置しているため、鉄道でのアクセスも比較的便利です。秋の開花の季節には、香り高い花を求めて多くの人が訪れ、歴史ある寺院と名木の魅力を楽しんでいます。