赤岩渡船は、群馬県邑楽郡千代田町赤岩と埼玉県熊谷市葛和田を結ぶ利根川の渡し船です。両岸の距離はおよそ400メートルあり、この区間を動力船によって約4分で往復しています。現在、この渡船は埼玉県と群馬県を結ぶ主要地方道「熊谷館林線(県道83号)」の一部として位置づけられており、橋の代わりに船で川を渡るという全国でも非常に珍しい交通手段となっています。
利根川には多くの橋が架けられていますが、県道として正式に認められている「橋のない公道」は現在ほとんど残っておらず、赤岩渡船はその貴重な存在として知られています。このことから「水上県道」とも呼ばれ、地域の生活交通としてだけでなく、歴史的・文化的価値を持つ渡船として多くの人に親しまれています。年間の利用者はおよそ2万人にのぼり、地域住民はもちろん、観光客やサイクリングを楽しむ人々にも利用されています。
赤岩渡船は県道83号熊谷館林線の一部として運航されており、群馬県が所有する県営渡船です。しかし、実際の管理や運営は地元の千代田町に委託されており、地域の交通手段として長年にわたり大切に守られてきました。
橋が架かっていないため、対岸へ移動する際には渡船を利用する必要があります。この地点で渡船を使わずに陸路で川を渡ろうとすると、下流にある武蔵大橋、または上流の刀水橋まで大きく迂回しなければならず、数キロメートル以上の遠回りとなります。そのため、赤岩渡船は現在でも地域の重要な交通手段として機能しています。
また、乗船料金は県道の一部であることから無料となっている点も大きな特徴です。公共交通として運航されているため、観光船とは異なり、地域住民の生活を支える交通手段としての役割を持っています。そのため、利用する際には地域の方々への配慮を忘れず、マナーを守って利用することが大切です。
赤岩渡船の歴史は非常に古く、戦国時代にはすでに存在していたことが知られています。文献には、戦国武将である上杉謙信の軍勢がこの渡しを利用して利根川を渡ったという記録が残されています。このことからも、この場所が古くから重要な渡河地点であったことがうかがえます。
江戸時代になると利根川の水運が大きく発展し、江戸や房総方面と北関東を結ぶ重要な交通路として利用されるようになりました。赤岩周辺は水深が深く大型船の航行が可能であったため、江戸方面からの船が遡上できる終点の一つとして栄えました。この地域は「坂東十六渡津」と呼ばれる主要な渡し場の一つにも数えられ、物資の集積地として大きな役割を担っていました。
年貢米や生活物資、参勤交代の荷物など、さまざまな物資がここを通って運ばれ、周辺地域は大変な賑わいを見せていました。当時は赤岩のほかにも、舞木や上五箇、上中森、下中森など複数の河岸が存在し、利根川を利用した水運の拠点として栄えていたといわれています。
しかし、明治時代になると鉄道や道路交通が発達し、利根川の舟運は次第に衰退していきました。多くの渡船場が姿を消す中で、赤岩渡船だけは地域の交通手段として存続し、今日まで受け継がれてきました。
大正15年(1926年)には群馬県営の渡船となり、その後昭和24年(1949年)からは群馬県の委託事業として千代田町が管理・運営を担っています。長い歴史の中で姿を変えながらも、地域の暮らしを支える交通手段として今も活躍しています。
現在、赤岩渡船では「千代田丸」と「新千代田丸」という2隻の動力船が運航しています。かつては手こぎ船によって渡っていましたが、現在はエンジン付きの船となり、安全で安定した運航が行われています。
・千代田丸:定員23名
・新千代田丸:定員20名
渡船は利根川の穏やかな流れの中をゆっくりと進み、片道およそ4分で対岸へ到着します。短い時間ではありますが、川の上から眺める景色はとても魅力的で、橋の上からとはまた違った利根川の風景を楽しむことができます。
赤岩渡船の運航時間は季節によって異なります。
4月1日〜9月30日
午前8時30分〜午後5時
10月1日〜3月31日
午前8時30分〜午後4時30分
なお、河川の増水や強風など安全な運航が難しい場合には、臨時運休となることがあります。運休時には群馬県側の渡船場に赤い旗が掲げられるため、利用する際には事前に確認しておくと安心です。
千代田町赤岩側から乗船する場合は、渡船場の小屋にいる船頭に直接声をかけて乗船します。船頭が船を出して対岸まで運航してくれます。
熊谷市葛和田側から乗船する場合は、堤防付近の待合所に設置されたポールに黄色い旗が用意されています。その旗を上げて群馬県側の船頭に合図し、船が到着するのを待ってから乗船します。昔ながらの合図の方法が残っている点も、この渡船の魅力の一つといえるでしょう。
自転車の乗船は可能で、利根川沿いのサイクリングを楽しむ方々にも利用されています。ただし、安全上の理由から原動機付自転車や自動二輪車は乗船することができません。また、団体で利用する場合は事前に申し込みを行うことで、よりスムーズに乗船することができます。
赤岩渡船の周辺にはレンタサイクルも設置されており、無料で自転車を借りることができます。利根川の河川敷にはサイクリングロードが整備されているため、川沿いの景色を楽しみながらゆったりとした時間を過ごすことができます。
また、渡船場の近くには歴史的な寺院や文化財も点在しています。「ぐんま名所百選」に選ばれている光恩寺や、近代日本の女性医師として知られる荻野吟子ゆかりの史跡など、歴史を感じられるスポットも多くあります。渡船を利用して川を渡りながら、周辺の史跡を巡る散策もおすすめです。
普段は橋を渡ることが当たり前の現代において、船で川を渡るという体験は非常に貴重なものです。赤岩渡船では、ゆったりと流れる利根川の風景を間近に感じながら、昔ながらの渡し舟の文化を体験することができます。
わずか数分の船旅ではありますが、そこには戦国時代から続く長い歴史と、人々の暮らしを支えてきた交通の文化が息づいています。地域の生活と歴史を今に伝える赤岩渡船は、千代田町を訪れる際にぜひ体験してみたい観光スポットの一つといえるでしょう。