法師温泉は、群馬県利根郡みなかみ町永井に位置する、三国峠にもほど近い標高約800メートルの山あいに佇む一軒宿の温泉です。周囲は上信越高原国立公園の豊かな自然に包まれ、四季折々の山景色とともに静寂な時間を味わうことができます。1999年には湯宿温泉・川古温泉とともに国民保養温泉地に指定され、療養と保養に適した温泉地として高く評価されています。
泉質はカルシウム・ナトリウム硫酸塩泉(石膏泉)で、無色透明のやわらかな湯が特徴です。源泉温度は約43℃。胃腸病や火傷、動脈硬化などに効能があるとされ、古くから湯治の湯として親しまれてきました。自然湧出する源泉をそのまま浴槽に引き込む贅沢な造りで、温泉本来の成分を存分に体感できるのが大きな魅力です。
正確な開湯時期は不明ながら、地形などから約1200年前の開湯と推察されています。伝承では、弘法大師が巡錫の折に発見したと伝えられています。宿としての創業は明治8年(1875年)。以来、山深い秘湯として多くの旅人を迎えてきました。
特に有名なのが、明治28年(1895年)に建てられた大浴場「法師乃湯」です。鹿鳴館風の和洋折衷建築で、大きな半円形の窓と重厚な丸太梁が印象的な木造建築は、長い年月を経た今もなお当時の姿を伝えています。浴槽の底には玉石が敷き詰められ、その隙間から源泉が自然湧出するという大変珍しい構造を持ちます。4つの浴槽はそれぞれ湯温が微妙に異なり、好みの湯加減を選んで入浴できます。
法師温泉は、与謝野鉄幹・与謝野晶子・若山牧水・川端康成など多くの文人墨客に愛されてきました。館内には彼らの書やゆかりの品が飾られ、歴史の重みを感じさせます。また、国鉄時代のフルムーンポスターがこの地で撮影されたことでも有名で、上原謙と高峰三枝子が入浴する写真は全国に法師温泉の名を広めました。
現在、法師温泉には一軒宿「長寿館」のみが営業しています。本館、別館、薫山荘、法隆殿といった客室棟があり、そのうち本館・別館・法師乃湯の浴室棟は国登録有形文化財に指定されています。黒光りする柱や梁が印象的な吹き抜けの玄関、そして玄関脇に設けられた囲炉裏は、宿の象徴ともいえる存在です。薪のはぜる音とともに、旅人同士が自然と語らう空間が今も守られています。
法師乃湯は混浴の大浴場ですが、夜20時から22時までは女性専用時間が設けられています。湯底から湧き出る源泉をそのまま楽しめる、情緒あふれる名湯です。
長寿乃湯は女性専用浴場で、日本天然温泉審査機構から高い評価を受けています。静かな環境でゆったりと湯浴みが可能です。
玉城乃湯は総檜造りの浴場で、内湯と露天風呂を備えています。男女時間交代制で利用でき、比較的設備も整っているため、初めて訪れる方にも安心です。
客室は法師川沿いに建ち、せせらぎを聞きながら過ごすことができます。夕食では上州牛や上州麦豚など地元食材を活かした料理が提供され、山里ならではの滋味深い味わいが楽しめます。春の新緑、夏の深緑、秋の紅葉、冬の雪景色と、四季折々の自然美が滞在を彩り、まさに非日常のひとときを演出します。
現在は宿泊客のほか、日帰り入浴も可能です(法師乃湯・長寿乃湯のみ、水曜定休)。受付時間は10時30分から13時30分までで、利用は14時までとなっています。訪問の際は事前確認がおすすめです。
鉄道利用の場合はJR上毛高原駅から町営バスが運行されています。車では関越自動車道月夜野ICより約40分。山道を進んだ先に現れる一軒宿は、まさに秘湯の名にふさわしい佇まいです。
豊かな自然と歴史的建築、そして自噴する清らかな湯。法師温泉は、日本の原風景と湯治文化を今に伝える、みなかみ町を代表する名湯のひとつです。